2023年9月21日 日本栗の致命的欠点は、渋皮が果肉に接着し剥けないことです。包丁で皮を剥くと、果肉も3割ほど削れて小さくなります。原因は、果肉と渋皮を接着しているポリフェノールです。
ところが、このポリフェノールがあるけど不活性の栗が昨年9月21日に我が家で誕生しました。「新・林甘栗」です。砂糖ではなく蜂蜜を入れたような濃厚な甘さがあり香り良くとても美味しい栗です。また、3ヶ月の冷蔵貯蔵も品質劣化なく保存性抜群です。この栗を作るために11年間かかりました。狙い通りのとても美味しい極上栗です。加熱すればツルッと剥けるので調理簡単です。
早速、農林水産省の種苗担当の方に連絡し、品種登録の準備に入っています。この栗が、①今までのどの栗とも違うこと、②毎年同じ性質の栗がなること、③接ぎ木して増やしても同じ性質であることを証明する必要があります。そのためには数年以上の期間が必要です。出願すれば、品種登録と同じように権利が守られますので、数年後に皆様にお届けしたいと思っています
新品種への思い
世界には、日本栗、ヨーロッパ栗、中国栗、アメリカ栗の4つがあります。それぞれの良さをあわせもった世界一美味しい栗を作りたいという栗人のチャレンジは明治から始まりました。私の祖父・林与八もその一人でした。甘くて美味しい栗、天津甘栗のように鬼皮、渋皮が簡単に剥ける栗(これを剥離性)を作りたいと17年間かかって生み出したのは、林甘栗です。この栗を始めて食べた時はあまりに美味しさに驚きました。栗の香りが口いっぱいに広がりました。まさに大陸の味がしました。
栗の品種は、何百種類もあり、全部を食べたことがあるわけではありませんが、私が食べた中ではベスト3(林甘栗、倉方甘栗、夢甘栗)に入る栗です。我が家で一番人気の栗です。ところが残念なことに、林甘栗は、剥離性がありません。日本栗の頂点に立つ美味しさだと思いますが、天津甘栗のように剥けないのです。日本栗のDNAを持つと剥けないのは仕方がないと思っていました。
ところが、農林水産省化果樹研究所で従来の常識を覆す画期的な日本栗が開発されました。鬼皮、渋皮が簡単に剥ける栗「ぽろたん」です。
詳しく調べると、元々日本栗の中には潜在的に剥離性遺伝子があったようです。劣性遺伝子のため表面化しなかっただけのようです。これは血液型のO型と同じです。AOはA型、BOはB型で、OOと二つ揃わないとO型が誕生しないと同じことです。
メンデルの法則によれば次のように交配すれば剥離性のある林甘栗が誕生するはずです。
林甘栗(AA)×ぽろたん(OO)→林ぽ(AO)
林ぽ(AO)×林ぽ(AO)→AA,AO,OO
しかしながらこれはすごく時間がかかります。少なくとも10年はかかると思います。
2010年頃から取り組み初め、2021年に林甘栗の遺伝子を持った剥離性のある栗の芽が出ました。数えると50株ほどです。この中のどれかが私の狙うOOがあるはずです。
この株が大きくなり、花が咲き、実をつけるのは3年先だと思います。その中から一番いい株を選ぶのに2,3年は必要でしょう。
祖父は、17年かけて林甘栗を作りました。私はまだ10年しか経っていません。20世紀最高傑作の林甘栗と21世紀最高傑作のぽろたんをあわせもった栗を22世紀に生きる人達に届けたいと思っています。
20世紀最高傑作
日本栗と中国栗を交配して生み出した「林甘栗」(林2号)
21世紀最高傑作「ぽろたん」
ご覧のように渋皮、鬼皮が簡単に剥けます。
郷土が生んだ「えな宝来」
岐阜県中津川市の中山間試験場、神尾所長が開発した品種。日本では3番目の剥離性のある栗。極早生で香り良し。
(林甘栗×ぽろたん)×えな宝来
果肉は黄色で、香り良し。この栗を植えると半分の株は、剥離性のある実をつけます。
交配図
現代農業2021年2月号に掲載されました